新規事業の成功確率を高める条件——戦略コンサルの処方箋を正しく活用する方法
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新規事業の成功確率を高める条件——戦略コンサルの処方箋を正しく活用する方法

戦略コンサルティングファームが提唱する「新規事業の成功確率向上」メソドロジーの統計的根拠を検証し、日本企業で成果を出すための適用条件と活用設計を解説する。

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「成功確率2割を7割に」の根拠を正しく読み解く

100社以上の新規事業を観察してきた中で、繰り返し目にするシーンがある。経営会議でコンサルファームの担当者が「成功確率を7割に引き上げた実績があります」と宣言し、その場の空気が明らかに変わる瞬間だ。数字の魔力は強い。しかし現場では、その数字の定義を深掘りした企業がどれだけあっただろうか。

大手戦略コンサルティングファームが新規事業支援サービスを展開する際、頻繁に使われるフレーズがある。「通常2割以下の新規事業成功確率を7割近くまで引き上げる」。数千件のグローバル支援実績から抽出されたメソドロジーに基づくとされ、書籍やセミナーで広く普及している。経営者にとって、これほど魅力的な売り文句はない。

しかし、この数字を使う前に前提条件を確認する必要がある。 その「7割」の分母と分子は何か。 「成功」の定義は何か。事業が黒字化したことか、PLに貢献したことか、あるいは単に「事業化フェーズに進んだ」ことか。さらに、その実績は自社と同じ規模・業種・組織文化の企業で達成されたものか。

戦略コンサルの処方箋は、適用条件を正しく理解して導入してこそ効く。条件を無視すれば、高額な費用だけが残る。

3億円の戦略策定後に事業がゼロだった事例から学ぶこと

筆者が見聞きした事例の一つに、ある大手インフラ企業が世界トップクラスの戦略コンサルティングファームに新規事業戦略の策定を依頼したケースがある。プロジェクト費用は約3億円、期間は8ヶ月。市場分析、競合分析、テクノロジートレンド調査、ビジネスモデル設計が美しいフレームワークで整理され、「5つの重点事業領域」と「3年間のロードマップ」が提示された。経営陣は感銘を受け、全社に向けて「新規事業の方針が決まった」と宣言した。

しかし2年後、5つの重点事業領域から立ち上がった事業はゼロだった。なぜか。コンサルが去った翌月から、「誰がこれをやるのか」「予算はどこから出すのか」「既存事業との人材のカニバリゼーションはどうするのか」という、戦略書には一行も書かれていなかった実行上の問題が噴出した。

美しい戦略と泥臭い実行の間には深い谷がある。その谷を埋める設計が不可欠だ。

「成功確率」の数字を正しく評価するための3つの視点

「成功」の定義を確認する

コンサルファームが掲げる「成功確率」の「成功」は、多くの場合「事業化フェーズに進んだ」「MVP(最小限のプロダクト)がリリースされた」「初期トラクションが確認された」という緩い定義だ。収益を生む自立した事業として成立したかどうかではない。

経済産業省の調査でも「事業化に進んだのは約3割」とされるが、これも「進んだ」であって「成功した」ではない。PoC(概念実証)から一歩進めば「成功」にカウントされるのであれば、成功確率はいくらでも操作できる。本当に確認すべきは「5年後に黒字で自立している確率」であり、その数字はどのコンサルファームも公表していない。

自社で活用する際は、成功の定義を明確に設定することが出発点になる。

生存者バイアスの影響を理解する

コンサルの実績として紹介される事例は、当然ながら「うまくいったケース」が選ばれる。数千件の支援実績のうち、華やかな成果を出したプロジェクトだけが書籍やセミナーで取り上げられ、静かに消えていった大多数のプロジェクトは語られない。これは古典的な「生存者バイアス」だ。

さらに、成功した事業がコンサルの手法のおかげなのか、それとも市場のタイミング、担当者の能力、経営者のコミットメントなど他の変数のおかげなのかという因果関係の検証は、一切なされていない。「我々が支援した企業が成功した」と「我々の支援が成功の原因だった」は、論理的に全く異なる命題である。

この点を認識することが、メソドロジーの正しい評価につながる。

処方箋の「適用条件」を確認する

戦略コンサルが抽出したメソドロジーは、グローバルの成功事例から帰納的に導かれたものだ。しかし、その成功事例の多くは、欧米の市場環境、フラットな組織構造、リスクテイクを評価する人事制度、意思決定の速さを前提としている。

終身雇用・年功序列・減点主義・合意形成を特徴とする日本の大企業で同じ処方箋を適用しても、効果は限定的になる。薬の処方箋と同じで、体質が違えば同じ薬でも効き方が変わる。「グローバルで実証済み」は「日本で再現可能」を意味しない。

自社の組織特性に合わせた適用設計が必要である。

戦略コンサルを成果につなげる3つの活用設計

戦略コンサルを全否定する必要はない。使い方を設計すべきだ。

「戦略策定」ではなく「組織診断」を依頼する。 新規事業がなぜ生まれないかの原因は、多くの場合アイデアの質ではなく、人事制度、意思決定プロセス、予算配分の構造にある。外部の目でこれらの構造的障壁を「診断」してもらうことは価値がある。ただし、「治療(実行)」は自社の手で行う。

コンサルへの発注を「戦略書の納品」から「検証実験の設計と実行」に変える。 8ヶ月かけて500ページの戦略書を作る代わりに、2ヶ月で仮説を立て、残り6ヶ月で市場実験を共に実行するプロジェクト設計にする。「頭の良い戦略」より「泥臭い検証」が事業を生む。

コンサルの「適用条件」を事前に確認する。 提案されたメソドロジーの成功事例が、自社と同じ規模・業種・組織文化の企業で達成されたものかを確認する。「グローバル平均」の数字は、自社の現実とは無関係だ。

「コンサルの戦略書」をより効果的に活用したい人

この問題意識が有用なのは、以下の状況にある人だ。

戦略コンサルに新規事業の方針策定を依頼したが、実行段階で停滞している経営企画部門の責任者。 戦略と実行の間の「谷」が構造的な問題だと認識し、実行にフォーカスした投資に切り替える契機になる。

「グローバルで実証済み」のメソドロジーを導入したが、成果が出ないと悩んでいるイノベーション推進部門。 メソドロジーの適用条件(組織文化、人事制度、意思決定速度)と自社の現実の不一致が原因である可能性を検証すべきだ。

新規事業支援にコンサルを起用するか社内で行うか判断に迷っている経営層。 「何を外部に依頼し、何を自社で行うか」の境界線を設計するための視点が得られる。組織特性に合わせてメソドロジーをカスタマイズし、実行まで一貫して推進できている組織には、この問題提起は該当しない。

コンサルの提案書を活かすために、まず自社の「体質」を把握せよ

次に戦略コンサルの提案を受ける前に、自社の組織について3つ問いを立ててほしい。「新規事業に異動した社員のキャリアはどうなるか」「新規事業の予算は誰がどのプロセスで承認するか」「過去に撤退した新規事業の担当者は今どこにいるか」。この3つの答えに、新規事業が生まれない本当の原因がある。コンサルの処方箋は、この体質を把握した上でこそ効く。INNOVATION VOYAGEの「手法と理論」カテゴリでは、コンサル以外にもイノベーション業界の主要手法を客観的に検証している。外部支援の活用判断の精度を上げるために合わせて読んでほしい。


関連するインサイト

イノベーションの構造的理解については「イノベーションを構造から理解する――定義・失敗の原因・成功の条件を徹底解説」で体系的に解説している。


参考文献

  • 経済産業省「大企業×スタートアップのオープンイノベーション ―その実践と課題―」(2019年)
  • Daniel Kahneman, Thinking, Fast and Slow, Farrar, Straus and Giroux (2011)(邦訳:『ファスト&スロー』早川書房)
  • Abraham Wald, “A Method of Estimating Plane Vulnerability Based on Damage of Survivors,” Statistical Research Group, Columbia University (1943)

INNOVATION VOYAGE 編集部

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