リード・ユーザー理論——なぜ先端ユーザーが最高の商品開発パートナーになるのか
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リード・ユーザー理論——なぜ先端ユーザーが最高の商品開発パートナーになるのか

MIT教授Eric von Hippelが1986年にManagement Scienceで提唱したリード・ユーザー理論は、市場の変化に先行するユーザーが新製品コンセプトの最良の供給源であることを示した。大企業が陥る「平均的ユーザー調査」の限界と、リード・ユーザーの探索・活用の実践法を解説する。

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「平均的ユーザーに聞いても、イノベーションは生まれない」

大企業の製品開発では、ユーザーリサーチが欠かせないプロセスとして定着している。しかし、既存市場の「代表的なユーザー」に「どんな製品が欲しいか」を聞いても、革新的なアイデアはほとんど生まれない。

この問題を体系的に解明したのが、MITのEric von Hippelだ。1986年のManagement Science(Vol.32, No.7, pp.791-805)に発表した論文「Lead Users: A Source of Novel Product Concepts」で、核心的な事実を提示した。

市場が広く経験するニーズを数ヶ月〜数年先に経験しているユーザーが存在し、そのユーザーが革新的な製品コンセプトの最大の供給源になる。

このユーザー群をvon Hippelは「リード・ユーザー(Lead Users)」と名付けた。

リード・ユーザーの2つの定義条件

von Hippelが定義するリード・ユーザーは、次の2条件を同時に満たす存在だ。

条件1:市場トレンドの先端に位置している。 一般消費者が数年後に直面するニーズを、現時点ですでに経験している。スポーツ医療用品を例にとれば、プロアスリートは一般消費者より先に、怪我の予防・回復に関する高度なニーズと向き合う立場にある。

条件2:問題解決から高い利益を受けることができると期待している。 ニーズを自分で解決する動機が強いため、自ら製品やプロセスを開発・改良する行動をとる。 この「自己解決行動」が、リード・ユーザーをイノベーションの情報源として特別なものにしている。

重要なのは、リード・ユーザーはアーリーアダプターとは異なるという点だ。アーリーアダプターは新製品を早く採用するが、リード・ユーザーは新製品が存在する前から自らが解決策を開発している。

平均的ユーザー調査が失敗する理由

von Hippelの研究が明らかにしたのは、ユーザー調査の根本的な限界だ。

インタビューやアンケートで「どんな製品が欲しいか」を聞かれたとき、ユーザーは自分が経験したことのある問題の範囲でしか回答できない。現在の製品カテゴリーの改良案は出てくるが、新しいカテゴリーを生み出すようなニーズは、まだそのニーズを経験していないユーザーからは出てこない。

製品開発で「ユーザーの声を反映した」はずの商品が、市場で受け入れられないことがある。原因の一つは、現在の「代表的ユーザー」のニーズに最適化した結果、3年後の市場が求めるものからずれた商品ができあがることだ。

リード・ユーザーのニーズは、この「3年後の市場のニーズ」の先行指標として機能する。

リード・ユーザーを特定する実践的方法

von Hippelとその共同研究者(Glen Urban等)が整理した方法論では、リード・ユーザーの探索は2段階で行う。

段階1:トレンドの先端を探索する。 対象製品カテゴリーにおける主要なトレンド(技術・顧客ニーズ・使用環境の変化)を特定し、そのトレンドの最先端にいるユーザーを探す。スポーツ用品なら競技トップレベルの選手、医療機器なら最前線の臨床現場、セキュリティソフトなら攻撃者に最も近い立場の防御側専門家が候補になる。

段階2:自己解決行動の有無を確認する。 候補のユーザーが、既存製品の改良や自作のツール・プロセスを開発しているかを確認する。「既存の製品では不満があり、自分でなんとかした」という経験を持つユーザーが、リード・ユーザーの有力候補だ。

大企業実装での落とし穴

リード・ユーザー理論は理解されやすいが、実装では3つの落とし穴がある。

落とし穴1:既存顧客の中でしか探さない。 大企業は自社の顧客データベースから候補を探す傾向があるが、リード・ユーザーは既存顧客の外に多く存在する。スポーツ用品会社なら、自社製品を使っていないプロアスリートの方が有用な場合がある。

落とし穴2:意見を「そのまま製品化」しようとする。 リード・ユーザーが提示するのは洗練された商品アイデアではなく、「解決したかった問題」と「自分が作った粗削りな解決策」だ。そこから製品コンセプトを抽出し、一般市場向けに翻訳するのは開発チームの仕事であり、リード・ユーザーに商品設計をアウトソースすることではない。

落とし穴3:業界内のリード・ユーザーだけを見る。 異なる産業のアナロジーがブレイクスルーにつながることがある。スキー用品の開発にハンググライダーのパイロットが参照されたケースのように、隣接する別業界のリード・ユーザーが持つ知識が、直接の業界のリード・ユーザーよりも革新的な視点を提供することがある。

ユーザーリサーチの次のステップとして、顧客発見の神話——ユーザーインタビューが明らかにしないものユーザーリサーチ過信のメカニズムと合わせて参照することで、顧客理解の方法論全体を見直せる。


参考文献

荒井宏之 a.k.a. ピンキー

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