社内を最初の顧客にした新規事業が、学習の機会を失う理由
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社内を最初の顧客にした新規事業が、学習の機会を失う理由

既存事業部門が最初の顧客になってくれた。売上が立ち、社内の評価も上がる。だがその売上は、市場に出たときの需要を何も保証しない。社内顧客が新規事業の学習を止める構造と、早い段階で社外の顧客に当てる設計を読み解く。

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社内を最初の顧客にした新規事業が、学習の機会を失う理由

新規事業の立ち上げで、最初の売上が早く立つことは歓迎される。とくに「既存事業部門が導入を決めてくれた」という報告は、四半期の進捗報告で映える。 社内に顧客がいる。しかも話が早い。そう見えるからだ。だが、この売上が新規事業にもたらしているのは、需要の検証を先送りする猶予であることが少なくない。

社内の顧客は、買う理由が社外と違う

社外の顧客は、課題があり、代替手段と比べ、予算を割いて買う。買わない自由もある。新規事業が学ぶべきなのは、この「買わない自由がある人が、それでも買う理由」だ。

社内の顧客は、この前提が崩れている。導入を決めた部門長には、全社の新規事業に協力するという暗黙の期待がかかる。経営層が推している案件を断るコストは、小さな導入費よりずっと高い。購買の判断に「社内の関係」が混ざり込む。 さらに、社内取引は価格が実勢から離れやすい。振替価格や社内予算で処理される場合、価格は市場の需給と無関係に決まる。

その結果、社内顧客からは「買ってもらえた」という事実は得られても、「なぜ買ったのか」「買わない人は何が引っかかったのか」という情報が得られない。学習に必要な摩擦が、はじめから取り除かれている。

売上が立つことで、検証の優先順位が下がる

社内の売上は、もうひとつの副作用を持つ。事業の成否を測る指標が、売上の「額」にすり替わる点だ。

四半期の報告に載る数字が育っていれば、チームは次の一手として社外の顧客開拓よりも、社内の導入先を増やす方向へ動きやすい。社内の別部門に展開するほうが、社外へ営業するより確実で速いからだ。 こうして、社内導入の要望が事業を「社内向けの内製サービス」に近い姿へ引っ張っていく。外から見れば受託の社内ベンダーであり、社外の市場で戦う事業ではない。

しかも、この状態は成功として報告される。売上は立っているし、顧客満足度の声も社内からは良好に返ってくる。問題が見えるのは、社外に出そうとした時点か、社内の予算が縮んだ時点になる。そのころには、チームの時間も資源も、社内要件に合わせた作り込みに使い終わっている。

社内要件が、プロダクトの形を決めてしまう

もうひとつの問題は、プロダクトの仕様が社内の事情に引っ張られる点だ。 社内顧客は、自部門の業務フロー、既存システム、社内の規程に合わせた機能を求める。それ自体は合理的な要望だが、積み重なると、社外の顧客にとっては不要な機能と、必要なのに欠けている機能が混在する製品になる。

社外に出す段階で、機能を削り、別の機能を足す作業が必要になる。初期の要件を受け入れた分だけ、手戻りは大きい。社内顧客の声を丁寧に聞いたことが、結果的に社外需要から遠ざかる方向へ事業を導いてしまう。

社内顧客を使うなら、設計に条件を置く

社内顧客を完全に避ける必要はない。社内は、最初の試作品を試せる安全な場所でもある。問題は、社内顧客を「検証済みの需要」として扱うことだ。 使うなら、次のような条件を事前に置いておくとよい。

  • 社内顧客を、仮説を試す協力者として位置づけ、顧客としての売上を事業の成果指標に含めない
  • 社内導入の時点で、社外の顧客に当てる時期を決めておく(社内で一定期間使ったら、社外の候補にも同じ提案をする)
  • 社内顧客に、他部門の事情を含まない「この機能がなくても使い続けるか」を聞き、買う理由と買わない理由を言葉にしてもらう
  • 社内売上と社外売上を、報告で分けて見せる

四半期の報告で、社内売上を新規事業の実績として数えるかどうかは、制度の設計問題になる。数えると決めた瞬間に、チームの行動は数字に最適化される。

自社の最初の顧客は、買わない自由を持っていたか

新規事業の最初の顧客が社内にいたとき、その人は断れる立場にあっただろうか。社内の事情を引いても、まだ買う理由は残るだろうか。 この問いに答えられないまま売上だけが積み上がっているなら、事業はまだ市場に出ていない。社外の最初の顧客に出会うまでの時間が、社内売上のぶんだけ延びている可能性を疑ってみる価値がある。

荒井宏之 / INNOVATION VOYAGE

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