辞めた社員が一番よく知っている——コーポレート・アルムナイという未活用の情報源
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辞めた社員が一番よく知っている——コーポレート・アルムナイという未活用の情報源

新規事業の外部有識者インタビューには謝金予算が普通に付くのに、3年前に辞めた元同僚に話を聞くという発想は稟議書に登場しない。退職者との関係が一律に切断される構造と、情報源として再接続する設計の余地を読み解く。

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辞めた社員が一番よく知っている——コーポレート・アルムナイという未活用の情報源

新規事業の外部有識者インタビューには、たいてい謝金の予算がつく。競合他社の動向を知る コンサルタントに調査を依頼すれば、それも当然の支出として稟議が通る。だが「3年前に辞めた 元同僚に、今の市場感覚を聞く」という発想は、たいていの企業の稟議書に一度も登場しない。 外部の有識者には金を払い、社内の事情も市場の実感も両方知っている元社員には、誰も連絡を取らない。

退職者との関係が切断される、構造的な理由

退職者との関係が途切れる背景には、秘密保持契約や競業避止義務という法務上の必要がある。 情報の扱いに慎重であるべきだという判断自体は正しい。問題は、この法務上の必要から 「退職者とはもう関係を持たない」という運用上の一律遮断が、ほとんど自動的に導かれている点にある。

機密情報へのアクセス制限と、人としての関係を断つことは別の話だ。しかし多くの企業では、 退職手続きの完了と同時にアカウントが消え、社内のつながりを保つ制度的な受け皿も存在しないため、 関係の継続は元社員と元上司・同僚の個人的な努力に委ねられる。組織として何を遮断し、 何を保つかを設計した結果ではなく、退職処理の副産物として関係が切れているにすぎない。

公式アルムナイネットワークという設計の存在

一部の業界では、この設計を意図的に行っている企業がある。大手コンサルティングファームの多くは、 退職者向けの公式アルムナイネットワークを運用している。定期的な情報発信、同窓会的な集まり、 そして何より、退職者が転職先の企業でクライアントになり、古巣に再び仕事を発注するという 還流の経路を制度として維持している。

この設計が成立するのは、コンサルティング業界が「人が出入りすること」自体を織り込んだ ビジネスモデルを持っているからだ。退職は関係の終わりではなく、ネットワークのノードが 社外に移動しただけの出来事として扱われる。一方、多くの事業会社では退職は関係の終了点として 処理され、その後にどんな知見が積み上がっても、それを聞く経路自体が存在しない。

「切る」か「活かす」かではなく、線引きの設計問題

ここから導かれるのは、退職者との関係を「全面的に維持する」か「完全に遮断する」かという 二択ではない。実際に機密性が高く遮断すべき情報と、業界の一般的な動向や市場の実感のように 還流させても支障のない情報は、性質が異なる。新規事業担当者が本当に聞きたいのは、 たいてい後者——今その業界で何が起きているか、なぜ自社のあの施策は現場に響かなかったのか、 といった感覚的な情報であり、競合の非公開データではない。

線引きを設計すれば、退職者との接点は新規事業の情報収集チャネルとして機能しうる。 接点を持つための制度(定期的な近況共有の場、緩やかなネットワークへの招待)を用意することと、 何を話してよく何を話してはいけないかの範囲を示すことは、両立可能な設計課題である。

自社の退職者との関係は、設計されたものか

新規事業の情報収集に使える予算とチャネルは限られている。その中で、社内の事情も外部の実感も 両方知っている退職者という手近な情報源が候補にすら挙がっていないとしたら、それはたいてい 退職処理の慣行をそのまま踏襲してきた結果にすぎない。 自社が退職者との関係をどう扱ってきたか、一度振り返ってみる価値がある。

荒井宏之 / INNOVATION VOYAGE

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